スカイダイビングという非日常なスポーツでの出会い

スカイダイビング

私と彼女とは年齢も世代も、住む地域や仕事柄、そしてほとんどの趣味もかぶる点はありませんでした。ただ、ささいなほんの一点で、たまたまの出会いがあったんです。

そのころ私は神奈川県に住んでおり、東京で出版関係の仕事についていました。彼女がいない状態が5年くらい続いていたでしょうか。忙しいのと暇なのと、結構波のある仕事で、暇なときには特に有給を取らずとも海外旅行にだって行けましたが、まあ、それは別のお話。

昔から飛行機や空が好きだった私は、ふと思い立って、翌月にはそれを実行に移しました。それは、スカイダイビングです。

スカイダイビングというスポーツは、この国では降下してよい場所が厳密に定められているようで、ここからいちばん近い場所でも栃木県という、やっぱり連休が取れないと難しいスポーツです。スポーツとはいいますが、運動音痴の私には、走る必要も泳ぐ必要も、特殊な乗り物や技能がいるわけではなく、勇気さえあればできるのに堂々と自慢できるありがたいスポーツ、それがスカイダイビングでした。

当日、始発の電車を使ってもギリギリというタイトなスケジュールで集合場所である寂しげな田舎駅の前に到着し、何台かのワゴン車が迎えに来たと思ったらバスロータリーにぶらぶらしていた人たちがわらわらと乗り込んだ段階で、こんなにも物好きがいるのか、と新鮮な驚きでした。

河川沿いの草むらの中にある砂利道を進み「ちょっとここでトイレ休憩しまーす」と言われ駄菓子屋みたいな粗末な木造店舗の駐車場で、私は降りませんでしたが同じ車の後部席にいた女性が、道を開けた私ににこりと会釈をして降りました。スポーツの得意そうな少し肉付きの良い女子大生…? そんな印象でした。

車はまた出発し、トータルで30分も走ったころ、目的地”ドロップゾーン”に到着したのです。大きい河川の下流、その河川敷にしつらえられたテントの中で、私と彼女を含む10人くらいで、動画を見ながらスカイダイビングのレクチャーを受けました。身体に巻くベルトみたいなのはハーネス。パラシュートと今まで思っていたものはキャノピー。ちなみに私のような超が付くほどの初心者は、タンデムといってインストラクターをおんぶするような形で、一緒に降下しなければなりません。

そこからは、3組くらいずつ別れてホバリングするヘリに乗り、雲ひとつない青空をぐるぐる上昇して3800メートルの高度から有無を言わさずインストラクターに押し出され、途端に空気が液体になったと思うくらい風圧が強く呼吸ができず、わけのわからないまま地上に戻っていました。

来たメンバーそっくり車で事務所に移動させられ、そこで費用を精算し、駅に送ってもらいました。

私の前を歩いているのが彼女でした。ちょっと、後をつけていると思われたくなくて困りましたが、彼女も少し後ろを歩く私を気にしている様子で、一度ならず2回3回と遠慮がちに後ろを伺います。

ホームに降りると電車が来ており、車内はガラガラだったので、ちょっと乱暴に手近な席にドカッと座りました。最初の出会いでは笑顔で感じの良かった彼女が、私がまるで付け回しているような仕草を見せたことにいら立ちがあったのです。

持ってきていた文庫本を広げ読書モードに入っていたら、先頭車両の方へ歩いてきたらしい人影が立ち止まって私を見ているのに気づきました。あ、彼女だと直感で思いましたが、私は本に視線を落としたまま動かないでいると、3秒…4秒と経過し、たまらず私が視線を上げると、そこにいたのは少し困惑気味の彼女だったのです。

今度は私がにっこり笑って「お疲れさまでした」と言うと、彼女はあきらかに安堵の笑顔で「お疲れ様です。すごい体験ができました。…あの、ここ、いいです?」思わずはいと答えると、彼女は隣に座って話し始めました。

今日は大阪から来たこと(だから昨夜は近くに宿を取ったこと)、大学でテニスをやっていたけれど現在休学中であること。乗り換えとなる大きな駅で一緒に食事をして、メールアドレスも交換して別れました。

何度かメールのやり取りをして、歳が5歳差であることも知り、やがて彼女の方からお付き合いをお願いしてくださり、金銭的に余裕のあった私が仕事の暇なとき、月1回から2回くらいの割合で大阪に赴いて、という関係が1年ちょっと続きましたか。彼女の休学の原因はテニスサークルの元カレだったそうで、別れて半月ころの一番寂しい時に私と出会ったんだとか。

スポーツ好きでスカイダイビングに来た彼女と、飛行機と空好きが高じてスカイダイビングに来たインドア派の私、やっぱり話題や好みがなかなか合わず、こんなことでもない限り、そもそも出会うこともなかったんでしょうね、と今はごくたまーに思い出すのです。